9. 意外にも、千葉の行動は咎められなかった。 酔っ払いの奇行ということで、厳重注意だけで、終わりになった。 そして、天根みらいは、二度と学校へ来なかった。 彼女を迎えに、列車が来た。 「……」 何もかも、あの日の再現みたいだ。何度もこの光景を見た。 時間が進んでいるのか、停まっているのか、わからなくなる。繰り返しの錯覚に頭痛がした。 空を映したように灰色にくすんだハトが地面をついばみながら歩いている。 人垣の向こうに故人の家族らしき集まりと、真っ黒の棺が見えた。 見覚えのある天根家の父母の姿と、若い女性が一人。駅員服の男性が一人。 去年、同じ悲しみを見送ったばかりだったのに。 「先生。今までみらいを指導してくださってありがとうございました」 「いいえ。本当に、残念です」 歳の若い者から、この町を去っていく。 死因は、何だというのだろう。 眠っているだけのように傷ひとつない。 唇は艶と色を持って、しかし、目蓋は固く閉ざされている。 本当に死んだのだろうか。 今にも薄目を開けて、千葉にイタズラっぽい笑みを投げて、「内緒」なんて言いそうだ。 内緒の方法で、死体に偽装して、町の外まで行く作戦だ。 笑いをこらえるのが、きっと、大変だ。 ――あのとき間に合えば、結果は違ったのだろうか。 「天根……。天根、未蕾」 未だ、蕾の、開花を待つ少女は。 無骨な鉄の棺に揺られて、あんなにも待ち望んだ外の世界へ、運ばれていく。 ここは、どこにも行けない、行き止まりの町だ。窮屈で息詰まる、生き詰まる、最果て。 閉ざされた町から、少女が見事、逃げていく。 |