02

 テュットがその牢に入れられた理由は二つある。
 一つは他の牢の管理が間に合っていなかったこと。
 それからもう一つ。
 テュットには生きて出獄する必要がなかった。
 まだ成長途上の、栄養不足の細い体に、一枚だけの肌着姿で彼女はその牢へ案内された。
 裸足のつま先がごつごつして湿った冷たい岩を踏む。
 地下牢では初夏の嬉しい好天気の気配が少しも感じられない。
 ここは岩壁で自然に出来た真っ暗な横穴。
 丁度小部屋のように岩壁が抉れているところへ後から鉄格子を嵌めて利用していた。
 粗末な、しかし頑強な牢。
 洞窟の中には湖が沸いて、牢の縁まで水が迫っていた。
 どこを見ても外の世界と少しも似た景色を持っていない。
 だからテュットは(本当にここは私が居た世界と同じなのかしら)と不安に思う。
 明かりは案内の者が手にした松明と、牢の奥でぼんやりと揺らめく蝋燭の炎だけだった。
「出獄は一月後。食事は日に一度召使が運ぶ」
 テュットの手足の枷を外して、案内の男がそれだけ言った。
 松明の光と共に立ち去っていく。
 遠ざかる光と人の気配をいつまでも追いかけて、やがて、一人残されたことを知った。
 そうだ、ここは牢の中。
 しばらくの間、テュットは格子の前で立ち尽くしていた。