21

 昔恋したことを、
 それが叶わなかったことを、
 男は思い出した。
 固い戒めが解けるように、過去の記憶を取り戻していた。
 昔恋したことを、
 それを許されなかったことを、
 だから抗ったことを、
 そのため多くを傷つけたことを、
 多くの悲しみを産んだことを、
 男は、思い出した。
 彼は想いの人と引き離された。
 理不尽な別離だった。
 運命は皮肉で、奇跡は起きず、祈りは果てて望みを絶たれた。 
 男は捕らわれ咎められ、罪人として罰を受けた。
 今分かるのは、己がそれを悔いていること。
 罪を知りながら犯し、常に罪悪感に苛まれていたこと。
 どんなに残酷に、どんなに非道に、どんなに苛烈に、どんなに冷徹でも。
 男は常に怯えていた。
 これは罪だと知っていた。
 これが悪だと知っていた。
 男は、恋した相手のために、悪をなしたのだ。
 それを正義と思えなかったのだ。
 男は、だから罪人だった。