25

 やがて獣は荒野の地で骨になった。
 異形の形をした骨が、そこに野ざらしになっていた。
 不毛の地に訪れるものはない。
 彼の死を悼むものもない。
 不毛の荒野に雨が注ぐ。
 慰めのように、まったく無関係のように、雨が降り続ける。
 どこからか風に運ばれて訪れた種がいつしか根を下ろす。
 不毛の荒地に芽が開く。
 花が咲いて、やがて枯れて実を結ぶ。
 花に誘われ虫が来る。虫が運んで種が広がる。
 果実を求めて小さな生き物が、それを求めてさらに大きな獣が集まった。
 小さなことを積み重ね、いつしか大きくなっていく。
 罪の獣の骨が形を留めていられなくなった。
 その上を歩く獣があった。獣たちは森に暮らしていた。
 荒野は今や森だった。
 罪の獣の成れの果て。
 大きな森ができていた。
 何年も、何十年も、あるいはもっと長い年月。
 国が滅びた地の上に再び国が築かれるほどの時の流れの果て。
 その果てに、森になって、そして尚。
 罪の獣はどこかに居た。
 牢獄に繋がれた時間と等しい永い時の中、一人で、しかし、独りではなかった。
 鼓動を失った獣は、しかし他の多くの鼓動の聞こえる場所に居た。
 土の下に。根の先に。虫の中に。空の鳥に。木の幹に。森に息衝く全ての内に。
 どこかに居て、覚えていた。
 少女のことを忘れなかった。
 少女の声を、体温を。触れ合ったことも、何もかも。
 次にめぐり合えたときに、必ず思いを伝えるために。
 男は、少女を待っていた。