07

  すみれと踊れ
  青い森の
  風はどこだ
  手打ち鳴らし
  今宵は祭り
  火に薪をくべ
  月も隠れりゃ
  けものも逃げる
 
 少女は歌った。
 何をすればいいのか分からずにいた。
 もう何日ここで過ごしただろう。
 頭が麻痺したように、感覚が壊れたように思う。
 日が近づけば処刑されてしまう。
 死ぬというのに。
 テュットはそれほど怯えていない自分に気が付いた。
 自分自身のことを危機感を持って考えられなかった。
 対して、残される家族のことは、考えれば考えるほど気持ちが重くなる気がした。
 だから何も考えずに、覚えている詩を暗唱する。
 幼い頃から親しんだ祭りの歌を囁く。
 収穫の祭りの歌を口ずさんで、ふいに止めた。
「けものって、狼や鷲なんかじゃなくて、ひょっとして……」
 自分の考えを声に出して呟く。
 誰に聞かせるわけでもない。
 この地下牢は静まり返っている。
 天井から滴る水の音、些細なそれが幾重にも反響するのが聞こえるほど。
 寂しくて心細くなる静謐。
 それに耐えるように、テュットはなるべく声を出そうと決めた。
 幸い、獣が音に反応して寄ってくるようなことはない。
「ひょっとして、あの獣のことだったのかしら」
 一体、どれくらい昔から、あの獣は生きているのだろう。
 収穫の祭りの歌は、祖母の祖母がそのまた祖母から教わったものだと聞いた。
 この国で暮らしていれば誰もが歌える民の歌だ。 
「そんなこと……」 
 考えても詮無いこと。
 他にすることもないせいか、獣に気を引かれているテュットがいた。
 今朝のことで少し警戒心が和らいだのかもしれない。
 もしかしたらあの獣は、そう危険なものではないのかも。
 だけど、ここは罪人の牢獄。
 あの獣も罪を犯して囚われているのだ。
 あるいは、罪人に罰を与えるために。
 そうだとしても。
「ずっと」
 ずっと一人きり。
 この地下洞窟に棲んでいた。
 もし人並みの気持ちを持っていたならば、それはどんなに辛いだろう。
 それともただの獣でしかなくて、何の感情もなく生きていただろうか。
 どっちにしたってテュットには、それが寂しいことのように思えた。
 それはテュットがたくさんの家族の中で育ったからかもしれない。
 家族。思い浮かべる、みんなの顔。不安な気持ちと、ほっとする気持ち。
 そしてまた考え事は一巡りする。